ホントの気持ち


「ねぇちゃん」
「ん?」


送別会が終わって部屋で明日の支度をしているつぐみが、突然手を止めて話かけてきた。


「仁王さんのこと、好きでしょう?」

ゴフッ

私は飲んでいたオレンジジュースでむせかえった。
理由は言うまでも無い。図星だから。

「え、そうなんですかさん!」

目を文字通りにキラキラと輝かせ、にじりよってくるのはそのテの話が大好きな彩夏。
ここに着いてから彩夏とつぐみは恋愛トークしていたけど、私は聞くに徹していたから当たり前と言えば当たり前かもしれないけれど。


「どうなんですか!?」
「好き…だよ。」

あまりの勢いについ本音が出てしまった。
決して彼女に悪気は無いんだ、そう思っても実際口にすると苦しかった。


好き。大好き。
こんなに惹かれてしまうなんて思わなかった。
息が詰まりそうなくらい、好きになってしまった。
きっとこれから先こんなに好きになる事なんて無いと思う。
まだ短い人生でこんな事を言うのは大げさかもしれないけど本当に。


だけど、


「だけど、言ったりしないよ。」


何度も考えて決めた事だから、はっきりと声に出して続けた。



「何で!?明日で帰っちゃうんですよ私達!」

私の告白に驚いて一瞬言葉が出なくなったものの、ハッとすると、ガクガクと私の肩を揺らした。
気を抜くと、決意も一緒に揺れてしまいそうだった。
そんな弱い思いを振り切って、同じ言葉を繰り返す。

「しないの。」
「だから何で?!」

食い下がる彩夏。
伝えないと一生会えなくなるよと、何度も私を説得する。


判ってるよ、だけど。




「告白、されてるんでしょう?」

つぐみはそんな私たちの空気を静かに裂いた。


「えぇ!?じゃあなおさら何で…」
「断るつもりだから。」
「だって好きなんでしょう?おかしいよ!」
「それは…」

言葉に出来ない。
だって、私は。


「私の事を理由にしているのなら駄目だよ。
 このままじゃ、本当にひどい子になっちゃうよ?」
「…つぐみ…」

今度は私が驚く番だった。
つぐみは判ってるんだ。
私が告白された事、頷かない理由。

「仁王さんに失礼だし、私にも失礼だわ。」
「だって…」

つぐみはずっと苦しんでいたのに、自分はのうのうと幸せになると言うのだろうか。
そんな酷い事、あっていいんだろうか。


口ごもる私に「あのね、」と笑いかけてつぐみは話し始めた。

「生きてる幸せも、ご飯を食べることの大変さも、人を想うことの愛しさも、この生活をしていたおかげで…少しだけど知る事が出来たから。
 確かにお父さんが居ないと言われた時は…すごくショックだったし、演技だったって言うのもホッとしたけど複雑だったよ。
 ちゃんは偶然それを聞いてしまったけど言えなくて、私の事を心配して苦しい思いをしてくれてたんでしょう?
 だったらどうして私がちゃんを責めたりするの?」

つぐみは私の前に立つとしっかりと手を握って言った。



「自分の気持ちに嘘ついちゃ駄目だよ。」





071215