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「におっ…!」


振り返りざま、仁王はとても驚いた顔をして、だけどすぐにムッと私を見咎めた。

「何でお前がこんな所におる。」

怒られているのに。不思議、嬉しくてたまらない。

ああ、仁王の声だ。仁王雅治だ。

自分の全てを仁王に向けてしまっている。
眼も耳も髪も指先も、全部。


「聞いとるんか?明日帰るんじゃろ。」


半ば呆れたように発された言葉は突き放されるようで胸が痛かったけど、
ここで言わなかったら、この声は、この声さえ永遠に聞けなくなるかもしれないんだと自分を奮い立たせる。


「あのね…
 第一印象は意味不明だったし、第二印象も第三印象も最悪だったけど」

どう始めていいか判らなかったから唐突な喋り方。
困惑した顔、してるね。


「握られた手を、熱いと思ったの。」

仁王が思いを告げてくれたあの夜とは逆に、私が手を握る。

「それ、は。」

仁王の瞳が私を見る。
逸らしそうになるのを我慢して、私もそれに応える。


「すき。仁王が、すきだよ。」


心臓が自分のものじゃ無いみたいに飛び回る。
言ってしまった事への期待と不安と喜びと後悔とが入り交じって、自分の中に渦を作る。
どうしていいのか、もう判らなくて。
俯いた瞬間、言葉の代わりに抱きしめられた。

「ん…ちょ、におっ」
「嬉しすぎて、死ぬかも。」

ギュウギュウと込められる力に愛しさを感じる。

「死なないでよ。」
「喩え。死なんよ。こんなに幸せなんに、死ねるか。」


仁王は嬉しそうに目を細めて笑って、そしてまた、真っ直ぐに私を見て口を開く。



「えりこ、」


初めて呼ばれた名前。


「好いとう。」


囁かれる甘い声。


「私も、だいすき。
 やっと言えた…」

ぽろりと目から落ちた雫は、今までで一番あったかい気がした。

「幸せ?」
「うん。」
「俺もじゃよ。」


しっかりと抱きしめあう。
伝わる早鐘みたいな鼓動と、確かな体温。

「なぁ、えりこ。ありがとな。」
「私も、ありがとう。」


二人して遠回りすぎて、この言葉に行き着くまでに時間がかかったけど。
ようやく伝えて、手にした気持ち。



もう離したりしないよ。





071226