彼女達の旅立ちの朝、俺は迷いもなく憩いの場を訪れた。
アイツはやっぱりそこに居て。

色々あったなぁと少し感慨深いものを感じつつ、ぽすっとの頭を撫でながら隣に座る。
いつもと違う様子のは、俺が離そうとしたらその手を握り返してきて少し驚いた。




「お別れ、だね。」

何を言おうかと思案する間も無く、先に口を開いたのは彼女だった。

「結局私ダメダメだったなぁ…
 やっぱ嘘下手だし。お別れなのにみんなの前で笑えないや。彩夏もつぐみも偉いよね。」

少し唇を尖らせてぽつりとこぼす彼女は相変わらずだと思ったが、
柳生の姿で会った時よりも幾分かはスッキリしているようなので安心する。


「いっぱい迷惑かけたね。ごめん。」

いきなりペコッとこっちを見て頭を下げると、申し訳なさそうに眉をハの字にしている彼女の表情がはっきり判った。

「ごめんね。私仁王には、好きって言わないって決めてたの。」

「…ああ。」

切り出されたのは昨日の話だった。
なんとなく判ってた。
彼女の事だ、言えるはずないと。

むしろ、だからこそ俺は言ったのかもしれない。自分だけ楽になりたくて。
ー酷い話だ。


「なのにさぁ…みんな優しすぎなんだもん。
 ヤんなっちゃうよ、本当。」

はうがぁー!と意味不明な叫び声をあげてそのまま伸びをした。


違う。それは違うぜよ。
優しすぎなんはお前さんの方だ。
痛みもつらさも何もかも背負いこんで、頑張っていたのはなんだから。
そんなお前さんを、みんな判っていたんだから。
誰もがに、感謝しているんだ。




その言葉はどうにも気恥ずかしいから飲み込んで、代わりに俺も今までを振り返って苦笑いする。

「俺も、やし。ダメッダメやった。」
「え、うそだぁ。」

あからさまに信じてない、って顔。

「ホントじゃ。俺ってこんなにガキだったんだな。」
「そう?そんな事無いと思うけど。」

どこがだ、どこが。
小さな事でイライラして。
無理矢理キスもして。
散々泣かせて。
理由を考えれば実に単純明快で、幼稚。

「好きな子いじめっつー事じゃ。間違っとらんだろ。」

口端を上げると、彼女は至極真面目な顔で頷いた。

「…まぁ、意外は意外だよね。
 うん、お互い子供だったね。」
「何だそりゃ。まだガキじゃろ。」
「あはは、そりゃそーだ。」






フッと会話が途切れ、何とも言えない沈黙が流れる。
別れの時間が刻々と近付いていて。
上手い言葉なんか見つからんけど、伝えたい事を紡ぎだす。


「時間が出来たらすぐ会いに行く。」
「うん。」
「待っとけるな?」
「仁王、人気なんでしょ。無理かも。」
「誰に聞いた?」
「赤也君。」
「アイツ後でシメる。」
「駄目だよ。それに、大丈夫。
 待ってる。」

だから、

そこで一旦切ると、彼女は笑った。


「絶対会いに来てね。」

その笑顔が強がりだって事は、もちろん判ってる。


「これ以上、」
「へ?」
「これ以上俺を骨抜きにしてどーする。」

情けないのぅ。
詐欺師の名が泣くぜ?
愛しさが、一分一秒、時を刻むごとに大きくなっていく。


「必ず…約束する。だから、大人しく待っとけ。」
「ありがと…」


彼女は零れかけた涙を拭うと、もう一度笑った。




071227