しまった、傘が、無い。




偶然クラスの子たちと出会ってしまい、階段を降りローファーに履き替え…このまま一緒に帰るんだろうか、そう思っていた矢先の豪雨。
目の当たりにして、思考がフリーズした。


「やっぱ降ってきたねー」
「傘持ってきて良かったー」
「あれ、ちゃんは?」

最近流行だかなんだかのゲリラ豪雨。
ゲリラって言うくらいなんだから、当然用意なんかしている訳が無い。
が、みなさんは用意がよろしいようで、長傘が既に花開いている。

「…入れてあげるよ?」

動かなくなった私に首を傾げる級友。
クラス一可愛い祐子ちゃんだ。

だけど口から飛び出したのは―

「あ、ごめん、今から親が迎えに来るんだって!!」

てんでちぐはぐな返事。

わざとらしく携帯を開いているけれど、その画面は待ち受けだ。
「そっかー」「良いなー」なんて言葉を浴びながら、私は雨の中に消えていく彼女たちに手を振った。





「なにやってんのあたしーー!!」

姿が見えなくなってようやく顔に張り付いていた笑みを洗い流す。

やっちゃった…やっちゃったよ…!

教室の置き傘は生憎一昨日お持ち帰り。
なのに雨は酷さを増す一方だ。

「こういう時は空気読んで止むもんでしょ…!」

空に叫んでも雨が淡々と降ってくるだけ。


八方塞がりで昇降口にしゃがみ込むと、後ろから盛大なため息が聞こえた。

「何でそう、分かりやすい嘘つくんですか。」

それと共に、あきれかえった様子の

「日吉…」

後輩が現れた。
“そう”ってことは聞いていたんだろう。
タイミング悪いな日吉は…

「だってあんまり喋ったことないから気まずかったんだもん…」

仕方ないのでぼそりと理由を告げる。
そもそも私はクラスの中心タイプとは無縁の生き方なのだ。

「そういうこと言ってるから友達少ないんですよ。」
「…」

ズバッと切り捨てる辺りが日吉だと思う。

長太郎ならもっと優しいよばか。
…などと返せるはずもないので黙り込むしかない。



そんな私を面白そうに見てるに違いない日吉は、今度はフッと和らいだ息を漏らした。

「まぁ、俺はその見え透いた嘘のおかげで役得ですけど。」

その言葉が意外で顔を上げる。
日吉は私の腕を掴んでゆっくり立ち上がらせた。

「早く帰りますよ、さん。」
「日、吉?」
「まさか『あんまり仲良く無いから入れない』なんて言いませんよね?」

傘を開きながら不適に笑う日吉には全然勝てる気がしなくて、黙って数歩歩み寄った。






たまにはいいですか。







081108