なんで、なんで夜中に電話かかってくんの!?




時刻は午前1時46分。

ゴロゴロと布団で携帯をいじっていた私の耳に飛んできたのは愛のあいさつ。

突如家電から流れたそれは、本来の甘い調べからは程遠く、静かな夜に不気味に響いた。



10秒くらいで切れたし、それ以前に取る勇気なんてなかったから、間違いか悪戯か判断はつかないけど、こわい。


とにかくこわい。



「何でみんな寝ちゃってるの…」


こんな時に限って家族は全員夢の中で、起きてるのは私だけ。

そんなばかな。




慌てて電気をつけたって何も起こらないけれど、何かせずには居られないのだ。



あとは―、



僅かな望みを託してカーテンを引くと、光を湛えた隣家の部屋。


その暖かな灯りにほっとして、自室の窓におでこをぶつけた。






「何かあったのか?」

「若…」


がしょんという間抜けな音を聞きつけたのだろう、見つめていた部屋の窓が開いて、彼が顔を覗かせる。

メガネをかけているところを見ると、勉強中だったらしい。

迷惑かもしれないと分かっていたけれど、私以外の人は想像以上に心強かった。




「夜中の電話くらいでビビってどうするんだ。」


成り行きを説明すると、もう少しオオゴトだと思っていたらしい彼はどうでもよさそうな返事をよこした。


「だっ、本当にこわ……」

「俺がいつも話してる内容の方がよっぽど怖いだろ。」

「それは、…そだけど。」


うん、確かにそう。

心霊現象とか好きな若の話は泣くほどのものだ。(現に私は泣かされっぱなしである


鋭い指摘にぐぅの音もでない。


だけど、気持ち悪さの種類が違うというか、とにかくヒヤリとしたんだからどうしようもないじゃないか。







「そっち、行って良いか?」


ぐるぐると回る不快感に思わず黙り込んだ私に届いた突然の申し出は、少し意地悪で素っ気ない。


「…うそ。」

「じゃあやめる。」

「嘘!お願い、一緒居て…!」


必死にすがりつけば、若は少しだけ笑って窓枠に手をかけた。



お互い答えはイエスしか持ってないのだから、きっとわざとこんなやりとりで私を落ち着かせてくれているんだろう。

若の優しさは全くもって分かりづらい。





まだ萎縮した胸の辺りがあの灯りのように暖かく溶けていくのは、時間の問題みたいだ。




隣人は誰よりも







090813











真夜中の電話とかまじでないと思います。