拍手4期 「怪我・病気」 仁王1 山本 仁王2 ←jumble *仁王1* 「何で判っとったくせに治療せんのじゃ。」 膝近くにあるぱっくり割れた傷口は、見るからに痛そうだ。 「えーと…私Mだから痛いの好っ…痛い痛い痛い!!」 理由を問いただせばマゾだからとかあからさまに嘘を答える。 馬鹿な事言うなと口にする代わりに、患部を突っついたりつねったりしてお仕置き。 「嬉しいんじゃろ、Mだってんなら。」 「ごめんなさ いたっちょっ本当に痛いんですけどごめんなさいちょっと横着してました!」 何語を喋っとるんじゃ、コイツは。 半泣きになるくらいなら端から言わなきゃいいのに。 「ったく、馬鹿。 今度そういう言い訳したら傷口に塩塗り込むぞ。」 「ちょっ待って、何でそんなドS笑いすんの!」 みんなに心配かけたくない、なんて言葉は必要無い。 無いが、嘘吐かれても仕様がない。 第一、普段はわーわー騒ぐ癖に、本当にヤバい時は言わんってどういうつもりじゃ。 「仕方ないから」 言うと、彼女は不思議そうにこちらを見上げる。 そう。“仕方ないから”、 「目ぇ離さんよ。 自業自得なんだから諦めんしゃい。」 「え、それって…」 「監視じゃ。」 相手の反応に少しは脈ありかと思いつつ、まずはケガを口実に君に一歩近寄る。 △戻 *山本* 「いってぇ…!」 今日もスライディングして豪快に怪我した、野球部エース兼私の彼氏である山本武の左腕にゆっくりじっとりと薬をつける。 「ガマン!」 動きも一緒に牽制するつもりで言ったんだけど、武はそれを聞くとヘラリと笑った。 「ランボみたいだな〜」 ったく、こっちは心配してやってるのに暢気なモンだ。 「はいはい。」 いい加減に相づちを打ちながら消毒液を救急箱にしまい、棚に片づける。 そろそろ絆創膏買い足さなくちゃ、ヤロー共は本当にすぐケガをするんだから。 そう思いながらそのまま彼の方に向き直る。 「ちゃんと家帰ったらお風呂入って、自分で消毒し直すんだよ?」 「えー」 「えーでない。」 真っ当なことを言ってるのに、彼の口からは非難の声が飛び出す。 「夜消毒しに来てくれよ。」 「馬鹿おっしゃい。」 あまつ“来てくれ”だなんて困ったものだ。 君の家までどれくらいあると思ってるんだい、全く。 「だから泊まりでー」 「どこの駄々っ子!?」 尚も食い下がる彼にはもう呆れるしかない。 治療する前は平気平気って言ってたくせに、何でそんなに甘えっこモードなんですか。 そんなに痛かったんですか。 「ここの!ああもう、駄々っ子でも何でも良いから来てくれよ!」 まるで癇癪起こした子供みたいだ。 口を尖らせてるのが可愛い、なんて言ってやんないぞ。 不覚にも揺らいだ自分を叱咤して、一言返す。 「…ムリ。」 多分武だって想定してた答えだろう、うなだれている割に文句言わないから。 身支度を整え始めると、グッと捕まれる腕。 振り向くと 「じゃあ、ちゅーは?」 と首を傾げた彼。 「は?」 何言われても動じないぞ、と思った矢先にそれじゃ間抜けな返答しか出来ない。 「キス!そしたら一人でも頑張れるから。」 「馬鹿言うな。」 聞き取れたとしても右から左に流したい内容だ。 どうしてそうなるの。 「頼むよー、な、マジで!!」 一向に腕を離そうとしない彼には、溜め息一つを送ることにした。 たかがケガ、されどケガ? 結局ちゅーしてあげる、私は君に甘いんだよ! △戻 *仁王2* 何も言葉を発さない私の口に差し込まれたのは甘いのど飴。 ヒリヒリとした痛みを伴って、のどを癒す。 何でお見通しなんだ、私が風邪っぴきで喉痛めてること。 こうなると、嬉しいはずなのに更にワガママになる。 ねぇ、黙ってた理由はそれだけじゃ無いの。 喉のイガイガより、心のイガイガを治してよ。 「…アリガト。」 「何じゃその言い方。」 小さく吐かれたため息に、申し訳なさでいっぱいになる。 ごめんなさい、だけど、止められない。 どうしようもないね。 再びだんまりを決め込んだ私の正面に立つと、また一つため息。 それから顎をグッと持ち上げて、目線をあわせて 「心の治療は甘いキスで良かろ?」 と言った。 ちくしょう、ばーか。バレバレですか。 嬉しくてそれだけで治りそうだ。 「ちゃんと、治してね。」 「りょーかい。」 イガイガ治療法 その後、どちらのイガイガも解消されたのは言うまでもなかった。 △戻