私と忍足は、俗に言う“友達以上恋人未満”な仲だ。
下らない話もしょっちゅうするし、すごく真面目に相談もし合う。それ相応にラブハプニングもあったりした。
この関係に満足と言えば満足だったけど恋人になりたいと言う気持ちもあって、私は最初の頃のように動けなくなってしまっていた。


そんな曖昧な私と忍足の関係を変えたのは、初めて奴から恋愛めいた話をふっかけられた事以外は何の変哲もない一日だった。







「なぁ…俺今めっちゃ悩んどるんや。」
「…珍しいね忍足。どうしたの?」

それは、屋上で昼食を取り終わってぼんやりと景色を眺めている時で。
特に言葉も交わさずに居た時だったのも相俟ってか忍足のただならぬ雰囲気に飲まれ、思わず姿勢を正す。

「あのな、明日、ある子が居ななってしまうかもしれんのや。…いや、絶対。」

最初、忍足が何を言ったのか判らなかった。
唐突な展開について行けない頭を何とか動かしてみるけど、返す言葉が見つからない。
震える喉から無理矢理声を出したら、かすれた上に裏返った。

「居なくなっちゃうってこと?」
「あぁ、そういう事んなる。」
「だいじな、子、なの?」
「せやな…いっちゃん好きや。」

好きだなんて忍足は早々口にしないのに。
慈しんだ、優しい顔までしてる。

ああ。何だ。
忍足そういう子居たんじゃん。
私勝てっこない。
どんなに変態でどんなにアホでも、忍足侑士という男はモテるのだ。
オチない女の子、なんて居ない。

彼にとって、私はただの友達に過ぎなかったんだ。




やばい、泣きそう―だけど。




「なに…悩んでんの?ばかじゃない。」
「…?」
「何迷ってんの!?
 そんな大事なんだったら、私になんか相談しないで、会いに行きなさいよ!」

ばかみたいなのは、私。
何応援とかしちゃってんの?

「せやけど…!」
「せやけど、何!?」

ぐっと言葉に詰まる忍足。
ほら、やっぱり行きたいんじゃない。

「忍足の好きなようにするしか無いでしょ?
 いつまでもメガネくもらせてんじゃねぇぞ!」
「…おおきに!」

ドンと肩を押すと忍足は少しだけ笑って、勢い良く駆け出して行った。








案外終わりって呆気ない。

恋愛は引いたら負け、好きになったら負けって誰が気付いたんだろ。すごいな。

「だって無理じゃん…」

一人ぼっちの屋上で、忍足のばか、と呟いても何も返ってこなかった。













「おい、」

次の日の放課後、帰ろうとテニスコートを横切った時、がっくんに声をかけられた。

「おはよう、がっくん。」

何となく判っていたから、動じていないような顔して「なぁに?」と返す。

「侑士知らねぇ?」
「あぁ、大事な子に会いに行くって言ってた。」
「大事な子!?何だよソレ!」

ガチャンとフェンスが音をたてて揺れる。

「昨日迷ってたから、背中押してきた。」
「なっ…いいのかよ、!」

案外すらっと口から出たから、平気かと思ったけど、良い訳無い。

「ホント…どうして私あんなの好きになったんだろ…」
「……」

やばい、絶対泣かないって決めたのに。
ぽろり、ぽろり
頬を濡らす涙は零れるより溢れるがあってる気がした。

「泣くなよ、バカ!」
「がっくん…何でがっくんが泣いてんのよぉ!」

気付けばフェンスの向こう側で岳人が肩を震わせて居て、それが余計に泣けて、二人で気が済むまで涙を流した。












「はは、すげぇ顔。」
「そっちもね。」

情けないやら恥ずかしいやら、茶化しあって照れ隠し。
今日初めて、心の底から笑えた。
フェンス越しに指先を絡めて「ありがとう」を囁く





と。

「そこッ!ラブロマンスは俺の特権や!」

聞き慣れた声。と同時に後ろからバリッと引き剥がされて、腕の中に収まる。

「アカンで!コイツは俺とラブロマンスするんやから!」

この学校には多くない関西弁と嫌でも耳につく低い声は

「ゆーしっ…!」

彼以外有り得ない。てかラブロマンスって。

「なっ、何言ってンの!忍足好きな子居るんでしょ!?」

思いっきりうろたえて暴れると、拘束される体。
そして

「…以外居れへんけど。」

さらっと言いのけられる衝撃的な内容。

「は!?」

至極当然と言った顔、いや待って、有り得ないってば。

「何、何で…!」
「何が?」
「忍足、好きな子…」
「やけど?」
「じゃあ、今日は何なんだよ!」

混乱する私に変わって岳人が叫ぶと「ああ、」と笑って、

「ちゃんともえかちゃんはGetしたで!」

とフィギュアを高らかに掲げた。

「「紛らわしいんだ、テメーは!!」」

その後、忍足に向かって痛烈な蹴りが複数人からお見舞いされたのは言うまでもない。


はっきりお前だと言ってくれたコトが嬉しかったのはしばらく内緒。


「ー堪忍してや!!」
「ちょっとは反省しやがれ!」


うなだれる忍足にべーっと舌出してきびすを返して、少しにやけた。






もうすぐ私たちは。







080321 オタタリネタ。ベタですかね…? 実は、書きたかったのはヒロインと号泣するがっくんです。(アレ がっくんとヒロインはこの機会にもっと仲良しになれば良い。(Not恋愛感情 そして忍足はそれを羨めば良い。 忍足、サイトでは初めてなのにこんな扱いでごめんなさいでした。 ぐだぐだで無駄に長くてすみません…!