「将臣君、将臣君。」
「ん?」
「水天宮、行こう。」


その日は八葉連中が総じて出かけていたもんだから、と俺の部屋でダラダラしていた。
そんな最中のあまりに突飛な発言に、口に放り込もうとしたポテチが床に落ちた。
手を伸ばして拾おうと思ったが、それよりも気になるの言葉に眉を寄せる。


「どこだ、それ。」
「うーんと…東京。」
「東京?」
「確か銀座から5つか6つくらいだよ。」

本当に突拍子も無いな。

事も無げに言い放つに、思わずため息を吐く。

聞いたこと無いと思ったら、都内かよ。
鎌倉から出るのも希だってのに、容易く話してくれるぜ。
近くのコンビニに行くのとは訳が違うってのに、判ってんのか?

俺の気苦労なんて知ったこっちゃねぇはそれきり何も語らず、にこにこと笑いながら

「行こうね!」

と俺の手を握り締めた。











電車に揺られて1時間そこいら。
景色も無い地下鉄に味気なさと飽きを感じて隣のを見れば、

「なに?」

と、首を傾げて俺を見た。
全く堪えていない様だ。

「あとどんくらいだ?」
「2つ!もうすぐだよ!」

指を2本突き立てて、俺に示す。

楽しそうな顔しやがって。

相変わらず目的も言わないし、何だか悔しくなって頬を軽くつねった。

「いったいし!何すんの!」
「べっつに。」
「うわーむかつく!何!」
「いや、だなぁと思って。」
「だから!何?」

じゃれあってる内に電車が止まる。
アナウンスを聞いてなかったせいで、そこが目的の駅だと気付くのにワンテンポ遅れた俺とは、慌てて電車を降りる羽目になった。










「本当に、ここが目的地だったのか?」

駅から少し歩いたところに、それはあって。
コイツがお参り好きだなんて話は聞いたことねぇし、水天宮前という駅に何かあるのかと思っていたから、正直拍子抜けした。

は唖然とする俺の手を引いて、看板前まで連れて行く。
そこには水天宮が出来た由来なんかが書いてあるようだったが、俺の目はある一点―奉られている人物に釘付けになった。

「安、徳帝…?」
「うん。びっくりした?」

少し悪戯っぽく笑うが見上げて尋ねてくる。

「あ、あぁ…」

驚いた、なんてモンじゃない。
同じく二位の尼君の名も刻まれていて、思わずその部分を指でなぞる。

「たまたま友達が持ってた雑誌に載ってたの。
 私が見つけたのも、何かの縁かなって。」

言葉を紡ぐことの出来ない俺を横目で見ながらは続ける。

「あっちの世界の人とは違うかもしれないけど…
 折角だからお参り、しない?」


正真正銘のサプライズだった。

きっと条件反射に思いついたことだったんだろう。

俺があの人達を気にかけてるとか、そんな深い意味じゃなく、直感的に。
でも、思いついてくれたから、俺はこうしてお前に連れられてきた。

胸が暖かくなるのを感じる。

「…そっか。サンキューな。」

くしゃっと髪を撫でると、「髪が乱れるよ」なんて言いながら、嬉しそうに目を細めた。










→後編





080802