「何で今正座させられとるか、判るな?」 「うぃ。」 「天根君のマネとかせんでええ。」 白石は、どうしてそんなコアなことまで知ってるんだろうか。 この状況がイヤすぎて別のことを考えようと試みたけれど、彼の冷たい視線によってそれは失敗した。 サービスラインの上、私と白石は対峙している。 もっとも私は正座で白石は腕組んで私を見下ろしてるけれど。 「何やらかしたか判っとる?」 「ボール…ひっくり返して遊んでました…」 「何で。」 白石は、普段から頭ごなしに叱ることはしない。 諭す、という言葉が一番近いと思う。 ただし、本気で怒れば話は別次元の世界。 何かもうとにかく怖いのだ。 諭す時のオカンのような慈愛なオーラは存在しない。 もういっそぶっ叩いてくれた方がマシだと思うほどに… そして今がまさにその状態である。 「原作に乗じたくて…ね…?」 「原作?何語喋ってんねん。 おかげでみんなボール拾いさせんといかんようになったやろ。」 私の言い訳に、白石はため息をついてコートを見回す。 ネット際、フェンス下で、40人もの数の部員がせっせとボールを拾っている。 それはまぁ一応、私のせいになる訳で。 先ほどから、言い返す術も反抗するスキも見当たらないという訳だ。 白石がこちらに向き直った。 苛立っているのか、眉間にはかなり皺が寄っている。 また来るのか、と俯いて目を瞑ると、 「部長、いつまでやってるんスか。」 ひょっこりと“天才君”が現れた。 「財前、アカン。今怒ったらんとこのアホは直らん。」 「そんなん怒ったって直らへんわ。」 財前の顔にようやくか、とこっそり息を吐く。 あからさまに悪く言われてるけど気にしない方向で。 所在無くぼんやりとひざ上を見たら、いつの間にか手を強く握っていたようで。 拳を弛めると、手の平にはくっきりと爪の痕が残っていた。 「遠山が暴れとるんですからさっさとして下さい。」 「はぁ?!そういうことは早よ言いや。」 「せやから呼びに来たんやないですか。」 焦る白石を他所に、のんびりとした口調で言う財前。 けど今一瞬私の方見て鼻で笑ったな見てたぞあとで覚えとけよ。 白石は更に眉間に皺を寄せ、少しだけ判断を鈍らせた後、 「お前もボール拾っとき!」 と言い残して、部室へ走っていった。 遠ざかる背中を見送り、立ち上がって膝の砂を払う。 さっき白石がしたように辺りを見回せば、きれいに収められたボールとオーケーサインが返ってきた。 NEXT ← 090509