「あー、は…?」
「休みだって。」
「無断欠席もう1週間だろー?やばくねぇ?」
「あたし変な噂聞いちゃった…
 さんが、年上の感じの人と大荷物持ってどっかに行こうとしてた、とか。」
「えー、カケオチ?」
「きゃー!いいなぁ。」
「意外…」
「じゃあもう、帰って来ないのかなぁ…」


これは後から聞いた話だけど、私が何も告げずに去った数日間で、面白いように推測が飛び交ったらしい。



朝練が終わったんだろう、テニスバッグを背負った幸村とブン太が教室に入ってきた。
私はちょうど机のプリント類の整理が終わって一息ついていたところだったから、横目でチラっと見てからいつも通りの挨拶をした。

「おはよう。」
「おはよう。…じゃねぇぇぇ!!」
「この間もやったよねそれ。」
「リピートネタはよせよブン太。」
「何のんきにせんべい食ってんだぁぁ!!」

8時38分、ブン太の少々やかましいツッコミが、教室中に響き渡った。




「おっ、帰ってきたな。」

ホームルーム、入って来るなり先生が私の方を見やって笑った。

「もう大丈夫らしいので。」
「何なに?何だったのー?」

私が返事をすると、途端にクラス中の女子が好奇の目を向ける。
少し面白いと思った。

「おじいちゃん家が農家なんだけど…具合悪くしちゃったから、一時的に一家総出でお手伝いに。」
「なんだぁ…カケオチじゃないんだー」
「カケオチは無いでしょ。
 安定するまでは、少し言いづらくて。」

残念がるクラスメイトに軽く笑って、建前を口にする。

確かに嘘じゃないけど、黙ってて下さいと言ったのは自分からだった。







昼休みは久々に屋上でご飯を食べた。
何となくだけど、ここに来ると思ったから。
案の定声がした時は、やっぱりドキリとしたけど。

「消えたかと思ったぜよ。」

近付いてくる足音と、相変わらず何も読み取れない口調。
私は柵にもたれかかって、顔を見ずに答える。

「そう?ああでも消えてしまいたかったかも。」

自嘲的に笑って、遠くの景色を虚ろに眺めた。
彼はそれが気に入らないらしく、グッと強引に肩を引くと、自身と向かい合う形にさせた。

「…何でじゃ?」
「貴方がどういう反応するか知りたくて。
 まぁ気付きもしないよね、仁王クンは。」

自分の痛さが笑えた。
ここまで溺れていたなんて、ね。


だけどお互い様だったのかもしれない。


「…お前さん、可愛くなか。」

彼はブスッと、最近で―と言っても私はしばらく居なかったけど―一番幼い顔をして呟いた。

「そ?お互い様じゃないかな。」
「俺は可愛さはいらん。」
「まぁ周りの子が可愛いもんね。いらないでしょ。」
「そーじゃなくて…あー、上手く行かんのぅ…」

彼はついには地面にへたり込んで、私を見上げた。


「なぁ、もう限界じゃ。俺の負けで良いから、そろそろ素直に勝負せんか?」


「最初に仕掛けたのはそっちなのに?」
「勘弁。可愛いさも愛も、のだけが欲しいんじゃよ。」

彼はすくっと立ち上がって、私をぎゅっと抱きしめた。






試し試され想い想われ
駆け引き好きで伝え下手な私たちが、ここから先どんな未来へ向かうのかは、別の話。





070825