食事の後、船の揺れはますます酷くなった。
動かず騒がず、何を聞かれても全て返せない。
最悪だ…船旅の一番嫌いな点はここだなと思う。
船は決して嫌いじゃないんだけど。




ふとした瞬間、船が今までで一番大きく揺れた―それはとてもとても大きな衝撃と一緒に。
初めは何が起きているか判らなかったが、かすかに世界が傾き始めた事から船が座礁したと理解した。
早く逃げようと言う彩夏と、ここに留まるよう父に言われたと訴えるつぐみ。
どちらも一理あると思った。
二人の目が私をじっと見る。
私は口を開こうとしたが、それはドアの叩きつけられる音によって阻まれた。
さっきの青ジャージの片割れと、また別の子が入り口に姿を現す。

「何やってんだ!」
「早く逃げろ!!」
「でも…」

懸命に叫ぶ彼らに躊躇するつぐみ。

「いいから早く!」

伸ばされた二つの手。
とりあえず二人を押し出す。
私も向かおうとするが、力が入らない。
ヤバい。

混乱して叫び出しそうになったのを救ったのは、切原君だった。

「さんも、早く!」


強く引かれる腕。
走れるだけ走って、何とかボートに乗り込んだ。
海は暗く、全てを飲み込んでしまいそうで。


「大丈夫ッス!掴まってて下さい。」

ギュッと握りしめられる手の温かさ以外は、全てが非現実の世界。
気を失う前にぼんやりと思った。



今日は絶好の、事故日和だったらしい。






070811