「タメ?」
「3年」
「のわ、スンマセン!」

人懐っこい笑みを浮かべる少年は、立海大付属中の2年生エースの切原赤也君、と言うそうだ。

「えーと…南の島にバカンス、でしたっけ?」
「うん。そっちは合宿なんでしょ。すごいね。」
「でも自給自足でこわーいヤツらと一緒なんスよ?
 あーぁ、俺生きてられっかなぁ。」

ボヤく彼に、失礼な話だがようやく中学生らしさが見えて少しだけ身近に感じる事が出来た。
…さっきからかなり失礼だな、私。

「しかもさー、強いから仕方がないけどうちのレギュラー全員居るし。」
「あ、かなり強気発言だね。」
「だーって強いですもん。」

噂をすれば影とでも言うのだろうか。

「うおー赤也いっちょ前にナンパしてんのー?」
「へへ。まぁね。」
「ブン太、デザート取ってきてやったぞ。」
「甘やかすなって言ったろジャッカル。」

同じ学校なんだろう、黄色いジャージの子たちが続々とやってきて何でだか囲まれてしまった。

「あー…と。」

次々と自己紹介され、立海大の強さについて語られ、テニスについても語られ、逆に質問責めもされた。
元気な人たちだなぁと思う。
親しみやすくて、楽しいとも。




ちょうど一区切りついた時に、すーっと横切ったひょこりひょこりと動く、銀髪が目を引いた。
すごいなー、丸井君の赤もなかなかだと思ったけど銀はさすがに…。

なんて考えてると、私の視線に気が付いたのか幸村君が

「あれはうちの学校の仁王だよ。」

と教えてくれた。
ニオウ。
耳慣れない名字だと思った。

「かなり変な人なんスよー」

特に、
その話に食いついて切原君は次の言葉を発そうとしたが、ニヒルな笑みを浮かべた彼―仁王君が背後に立って囁いた。

「ほぉ赤也、お前さん言うの。」
「げっ、仁王先輩…」


整った顔立ちに、特徴的なあごのほくろ。
紐で一つにまとめたしっぽのような髪。
少し猫背気味の姿勢。
沢山の方言の混じった喋り方。

彼は自分の世界でカテゴリー分けが出来ない人間で、彼を見ていると不思議な気分になった。
それはあまりにも衝撃的だったんだろうという事で片づけた。



それから食事が終わるまで、ずっと下らない話をして笑った。
これはこの瞬間だけの会話で、いずれは忘れてしまうちっぽけな出来事で。
それを少し寂しいと思ったのは初めてだった。





070811