「想定外だったな。」
「黙ってるしかねぇだろ。」

手塚君と…跡部君だったか。
リーダーで会議をしているのだろう。

しかし、時計はまだ3時半を差している。
こんな時間に?しかもこんな場所で?
はっきり言って不審だった。
そしてその不審感はやはり正しくて、とんでもない事実へと進んでいった。


「彼女たちにも、遭難を続けてもらうか…。」
「それしかねぇだろ。
 このサバイバル合宿を仕組んだ意味が無くなる。」



その恐ろしいほど短い会話で、理解してしまった。
こんな時だけカンの良い自分を呪いたくなる。
つまり、遭難はテニス合宿の為の嘘だって事だ。


ならばとにかく次の自分の行動は決まっている。
迅速かつ速やかにここから離れよう。
何も出来ないんだから、あの二人に相談した方がいい。



しかして定説なり、そんな事を聞いて逃げ切れるはずがない。
思いっきり水を踏んづけて、バシャンと音を立ててしまった。

「誰だ!」

まさか自分がこんなベタなセリフを聞く事になろうとは。
逃げて捕まってもしょうもない。
ただでさえ今の話を聞いて疲労感がドッと出たのだ。
一つため息をつくと、私はそちらに出向いた。

「…です。」

すごい、二人とも露骨に眉間にシワが寄った。

「聞いたか?」
「残念ながら。」
「なら話は早い。黙ってろ。」
「いやだ。」
「俺様に楯突く気か?」

イラっとした跡部君の声。
だけどそれは彼だけじゃ無い。

「突く突かないの問題じゃないでしょ!?
 つぐみはどうすんの!!」

思わず叫んでしまう。
だってあの子は、自分の父親が生きているかも判らない状態なのだ。
昨日だって、声を押し殺して泣いていたのに。

それを聞いた途端彼らは、申し訳なさそうな顔と、気分を害したって素振りをした。

それを見てハッとする。
そうだ。
別に彼らだって騙したくてやっている訳じゃない。
判りにくいが、跡部君の方も気にしている。

聞けば、つぐみのお父さんだって事情を知り承諾しているそうだ。


でも。
だけど。


2つの逆説がぶつかりあう。
混乱で、頭がショートしてしまいそうだった。




結局私は―

「ボロが出たら、フォロー、して。」

黙っている事を選んだ。
少しばかり情報が入りすぎた頭では、もう何も考えることが出来なかった。



かくして私は、身にそぐわない、あまりにも重大な秘密を背負う事になってしまった…



070825